
« part.2 : 前編
さて今回はストップモーションのお話。前編で述べたとおり「連続写真をぱらぱら漫画の要領で見せればまるで動いているように見える」という発想から映画が生まれ、じゃあ一こま一こま少しずつ対象を動かしてフィルムに撮影していけば無機物をアニメイトすることもできるじゃないか、というわけでストップモーションの技術は誕生。その技法はもちろん、パペット・アニメーションという形で物語映画のフォーマットとして取り入れられます。「ウォレスとグルミット」や「ピングー」といったキャラクターは劇場でもお茶の間でもお馴染みになっていますし、NHK教育テレビの5分枠「プチプチ・アニメ」は「ニャッキ!」をはじめとしてクレイ/パペットアニメーションを数多く紹介しています。
あるいは数年前、「チェブラーシカ」が異常に(母親と姉がチェブラーシカ人形を同時に入手するほど)人気になったこともありますが、その初期はロシアやチェコで隆盛を誇っていた東欧産パペットアニメーションは根強い人気を誇り、ヤン・シュヴァンクマイエルのように「魔術としてのアニメーション」を通して実験的な映像を放つ作家もチェコからあらわれます。筆者はどちらかといえば後者のような、実験映画に親しんだ人間ですので、少し掘り下げてみましょう。
木炭画のアニメーションをクラッシック音楽と完全に同期させた「スタディー」シリーズや、後にディズニー映画「ファンタジア」の原案を手がけるといったオーディオヴィジュアルの先駆者と言えるオスカー・フィッシンガーの作品「Komposition In Blau」。
無機物をこま撮りしてアニメイトする技法を一般に「オブジェクト・アニメーション」と呼び、J・スチュワート・ブラックトンが1907年に発表した「幽霊屋敷(The Haunted Hotel)」がその元祖といわれているようです。筆者は未見ですが、家具が勝手に動き出すポルターガイストモノの作品だそう。そちらではまだ具象的なイメージが見られますが、フィッシンガーはここで、より抽象的な映像を求めてこの技法を応用しました。
対して、人間など動物をこま撮りする技法を「ピクシレーション」と呼び、タケイグッドマンのビデオでは「スキマチック」などこちらのアプローチが多く見られます。ピラゴラ体操・行進の元ネタとなる「カノン」を制作した映像作家ノーマン・マクラーレンは、「隣人」という作品でピクシレーションを用い、コミカルな、またときに恐ろしくブラックな映像を作り出しました。
境界線上に咲いた一輪の花を巡って起こる悲惨な争いが、キュートにからだをくねらせる花、空中をすっ飛ぶ中年男性などなどユーモアのある描写で表現されています。特に「空中をすっ飛ぶ中年男性」の躁的なイメージはびっくりするほどユートピアですね。
どちらもシュヴァンクマイエルが言うところの「魔術としてのアニメーション」を存分に感じさせるものですが、筆者が先日東京は新宿のICCのライブラリーで鑑賞した「SPACY」のインパクトは魔術的というより悪夢的でした。
日本の実験映像の先駆けといわれる伊藤高志によるこの「SPACY」は、以前書籍で一枚のスチルを見たものの、それだけでは全くどんな作品であるのか想像もつきませんでした。実際に見てわかりましたがあれでこの映像の正体を見抜けたら大したもんです。舞台はおそらくどこかの学校の体育館。周縁に並べられたパネルには体育館の内部が鏡のように映し出されています(実際は計算され配置された写真パネルと思われますが)。カメラが次第にそのパネルに寄っていくと、いつの間にかそれに吸い込まれた視点は体育館の中に再び放り出されます。そしてまた別のパネルに寄り、吸い込まれ、開放され、吸い込まれ、開放され、色調とサウンドトラックも赤く、青く、ノイジーにカオスへと展開していく。ポケモン事件を思い起こさせるフリッカーをクライマックスに、カメラを構える作者の姿が最後のパネルに現れて「SPACY」は完結します。
ストップモーションの魔術を実感したのはなによりこの作品によってです。勿論凝ったエフェクトを使ったものもありましょうが、厳密なコンテに基づいてこま撮りされたこのミニマルな映像作品にはその後の日本の実験映像に刺激を与えるだけのマジックを持っていたように思います。
残念ながら現在インターネットで手軽に見られる状態ではないようですが、ICCに設置されたMac(の皮を被ったWindows)から閲覧することができますので是非機会があればご覧ください。
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パペットアニメーションが東欧の国々で発展した理由のひとつとして、なによりコストがかからない、安価な表現方法だったという事実があります。現在でもそれは変わらず、ウェブカメラがあれば手軽にストップモーションでアニメが作れるソフトウェアが安価に提供されていたり、またデジタルカメラを用いてしまえばこれほど手軽な手段もないでしょう。コンピューターを用いたビデオ制作が非常に安価に導入できるようになったとはいえ、まだストップモーションの手軽さというのも魅力的だと思います。
それでは最後に、マイ・ベスト・ストップモーション・ビデオを。Cornelius / Beep it、彼のビデオではお馴染み辻川幸一郎氏の作品です。
この光のペインティングは、カメラの露光時間を通常よりもずっと長くして行うわけですが、このビデオでは全編にわたって一こま一こまそのプロセスを経て撮影されたとか。嘆息。
Author : imdkm(忌ミヂクモ)
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imdkm weblog→"into your life, it will creep"
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